困った病気になっちゃったひとりぼっちな人のために


by ombres
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告知に至る道(3)

朝から病院へ。
診察室に入ると、マンモグラフィーの写真が正面に提示されている。でも、左右とも乳腺で真っ白なので、何だか判らない。まあ、確かに左には歪な塊のような物に見えなくもないが、何が何やら…。

「やっぱ、ガンですね」

と先生。それから不思議そうに私を見た。

「今日はご家族の誰か一緒じゃないの?」
「いいえ」



配偶者はいないし、親はもう老齢で自分達の事で手一杯。そういう場合、こういうところに連れてくるべき家族ってダレさ? 今後はこういうシングルも、増えると思うよ。…しかし、先生、それって取り合えず、ガンって言っちゃう前に聞いておかないとダメでは。

「検査結果は、みんなガンで、こっちもVだから、間違いなくガンだね」と、先生。

…げ、しまった、Vってナニ?もうちょっと予備知識を仕入れておくべきだった! ふて腐れて早寝している場合じゃなかった。 ちょっと後悔した。

「最近は、セカンドオピニオンってあるけど、これがガンだという診断だけは99%覆らないと思うよ」

なるほど。と、言う事は、先生の経験と統計的に、私のケースは100%ガンなのだ。あとは先生の経験や判断基準が信頼に足るべきものかどうかだけが、私には重要となってくる。…しかし、相変わらずガンガン飛ばす先生だ。

ところで、この日は、ベテランっぽい看護士さんが先生の後ろで、心配げにやり取りを見ながら立っていた。前回はいなかったので、明らかに不自然だ。何のためにいるのだろう?もしかして、ここで私に期待されているリアクションは泣く事か?取り乱して泣き崩れるべき?でも、「ああ、マズい。仕事どうしよう? 休めるかな? どうやって段取り付けよう? あと、私が入院したら、可愛い猫チャンたちはどうなるの?」…と、私が心配なのは仕事と、そして猫チャン達の事だけだから、別になあ。所在無げな看護士さんと目が合って、ちょっと気まずい。だって、胸はコンスタントに痛いし、形は歪だし、脇も腫れてるし、背中も痛い。とにかく相当悪いのだろうという事は実感できた。ガンはガンなのだ。もういい。

「で、手術するんだけどね、胸はこう切ります」

と、先生は手術同意書に胸の絵や手術の切り方の絵を描いていく。乳首を中心にしてレモン形に切って切除するのだそう。「へぇ~」と感心して眺める。脇のリンパに一箇所手で触れる転移があるので、それも含めて取って、背中の方まで穿って見てみるから、とのこと。

「(なるほど、そうやって)全部取るんですか…」と感心して呟いた。それを「全部取るんですか…(ヤメテ)」と先生は解釈したのだろう。急いで「温存治療」というのもあると説明してくれた。要約すると、

1)温存治療は、胸を全部取らない
2)でも、私のような巨大シコリのケースには向かない
3)もっと実験的な治療も最近ではあるが、この病院は大学病院じゃなく公立病院なので、今現在、一番着実でオーソドックスな方法を選択するようにしている

なるほど。いいじゃないですか、基本に忠実。了解。
「あのー、10年生存率はどれくらいで?」 唯一知っている単語を繰り出してみた。
「10年じゃなくて、5年なんだけどね。リンパへ転移の数で区別されてるね」と、先生は書いてくれる。1~3個の場合は約XX%で、4個以上になるとYY%と。4個以上になると、ガクッと生存率が低くなる。

「はあぁ…(ナニ、この違い? じゃ、この3個と4個とを単独比較したらどうなるのだろうか?)」と呟いたのだが、先生は「はあぁ…(じゃあ、私、死ぬの?)」と受け止めたようだ。「これは日本人よりガンになり易い白人のデータだから」とか「これは5年前に手術した人のデータで、医学は日々進歩しているから」とか色々フォローしてくれる。何かムッとしていて怖そうと思ってたが、いい人っぽい。

ところで、例えばアメリカの患者のデータだと、サンプルが人種別であると明記されているなら別だが、通常はあらゆる人種が入っている。だから、例えば生き延びたXX%は全部白人で、残りは全員東洋人で、治療が合わずに全員死んだ…というような事はないのだろうか? もしくは、例えば東洋系が多い地域のサンプルで、その逆とかさ。白人の方が乳がんにかかり易いとか予後が悪いと言われているなら、東洋人とは体質が違うのだろう。だったら、薬に対する反応も、当然異なってくるのではないだろうか?ほら、白人は平気で飲んでるパキシルやプロザックですら、日本人は副作用に悩まされるって言うし。…と、考え始め止まらなくなる。私を悩ませる謎は、社会のいたる所にあるのだ。考え込む私。説明を続ける先生。

「で、その後化学治療、CEFね。今はネットにたくさん情報があるから調べてみるといいよ。これ、髪が抜けちゃうんだよね。髪が抜けにくい薬もあるんだけど、やっぱ効果が少ないんだよね」
「じゃあ、効果があるのでお願いします」

「効果がある」というのは、当然科学的根拠があってのことなのだろう。毛を惜しんで科学を蔑ろにする気は毛頭ない。しかし、やっぱハゲへの道か…。これは、知り合いのハゲ具合を笑っていた報い、ハゲの呪いかもしれない。しかし、ガン=ハゲというイメージは、間違いではなかったのか。まあ今はカツラもあるし、スキンヘッドってのもネオナチか瀬戸内寂聴風味で、面白いかもしれない。

「じゃ、来週…再来週の27日に手術で、26日に入院でいいのかな」
「仕事は、どのくらい休んだらいいでしょうか?」
「一週間入院で、その後2週間くらい静養するといいんだけど、そんなに休んだらクビになっちゃうって人は合計2週間くらいで復帰してるね」
「じゃ、お願いします」
「イヤになったら、電話してくれればいいから。女性はねえ、ノイローゼみたいになっちゃう人もいるからね」

先生、それは、もし先生が私にしたみたいに全員に告知してるのなら、半数以上はその場でフリークアウトすると思うよ。ガンはガンだけど、おそらく日本女性の大半はもっとソフトな告知を望むんじゃないかと推測するよ。先生は必要な情報は聞けばちゃんとくれるし、シンプルでベーシックなお医者さんなんだけれど、誤解を受けやすいタイプだ。

よし、二週間休んで、後半は在宅でやろう。取りあえず、そんなに早く復帰できるなら手術がいいや…。そう思った。でも、猫たちを一週間も留守番にさせるのは可哀想だなあ。猫チャン達は「どうして帰ってこないのかニャ? 寒いニャ、怖いニャ」と、私を待ち続けるのだろうか? と猫心を勝手に想像してみたら、不憫で不憫で、初めてちょっと泣けてきそうだった。

その日の午後は手術のための検査。血液検査、尿検査、心電図、肺活量、レントゲン。これはお決まりのフルコースなのか? 検査の中では、もう鼻つまんで何種類もさせられた肺活量が、一番疲れた。でも、技師さんは肺活量担当の人が一番コミュニケーション能力に長けていた。おそらく、その検査に要する指示が一番複雑で多いので、そう進化せざるを得なかったのだろう。「必要は発明の母」じゃなくて、「必要は進化の母」というヤツだ、きっと。

その夜、大事な友達と知り合いにメールを書く。「ガンだったので手術する」と。しかし、本当に伝えたかったのは、「健康診断サボるな」「ガン保険入れ」だ。

「あーあ、新年早々、こんな辛気臭いメールもらったらイヤだろうな」と最初は黙って済まそうと思った。しかし、手術中に突然死ぬ事もあるかもしれない。だから、身辺整理レベル1くらいはやっといた方がいいのではなかろうか?「友達がガンだ」ってのと「友達がガンで、手術で死にました」ってのと、どっちがイヤなニュースだろうか?まあ、どっちも嫌だが、連絡くれなかった友達に「水臭い。なんで?」と自分なら憤るだろうから、やはり連絡する事にした。 

海外にいる間に不精して、殆どの友達と音信不通になった。そりゃ、5年も6年も年賀状すら送らない薄情なヤツだったのだから仕方ない。で、疎遠になっている旧友には、まったく知らせない事にした。久しぶりに旧友や古い知り合いから連絡あって何だろう?と嬉しく思うと、どうせ「選挙」「借金」「誰か死んだ」「宗教」ってロクでもない知らせか誘いしかない。久しぶりに連絡して、いきなり「ガン」ってのも、ちょっと嫌がらせフィーリングが漂う。私の年齢だと、友達は皆、子育てやら働き盛りで、いずれにせよ大忙しで自分のことで手一杯なのだ。まあ、一段落着いてからできたら連絡すればいい。と、なると、友達の人数は極端に絞られる。だから、そんなに悩む必要はないのだが、付き合いの程度で、誰まで知らせるべきなのかが難しい。

しかし、まずメールを書いた相手は、「私に万が一があったら、猫達をお願いします」とお願いするオンライン友人達だった。
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by ombres | 2004-01-16 00:00 | 告知に至る道